人生「諦めが肝心!」か「最後まで諦めないこと」が大切か!?

 先日までロシアのソチで冬季オリンピックが開催され、7日からはパラリンピックも開催され、スポーツの話題に花が咲いています。今年はサッカーワールドカップもあり、スポーツ・イヤーとなっています。スポーツは参加することも重要ですが、勝ち負けも興味津々です。まして国単位で参加するオリンピックなどは一般観衆の興味が日本人のメダル獲得に向くのは当然のことでしょう。皆様も早朝まで応援をなさったのではないでしょうか。期待通りにメダルを獲得した選手、努力が報われずに失速した選手等々悲喜こもごものドラマがありました。メダルを獲得した選手には「今までの努力が報われ、ついにメダルを獲得!」などのアナウンサーの絶叫解説が付きます。そして必ずといって良いほど「諦めずに続けるということは大切なことですね」と続きます。

 この言葉を聴くといつも思うことがあります。

 まさにジャンプの葛西選手などはその「諦めないことが大切!」の象徴かもしれません。1992年、19歳で初めてアルベールビル・オリンピックに出場し、以来リレハンメル、長野、ソルトレイクシティー、トリノ、バンクーバー、ソチと史上最多である7回の冬季オリンピックに出場し、齢41にして初めて手にした個人メダルです。反面、日本中から金メダルを期待され、本人も涙ぐましい努力をしてきたことでしょう浅田真央選手は、今まで世界中の大きな選手権であれだけ素晴らしい成績を残しながらも、今期で引退を表明しながら望んだ最後のオリンピックで大変残念ながらメダルを逃してしまいました。第三者はまったく無責任ですから、あ~だこうだと批評をするものですが、本人は自分が出した結果ですから納得して、継続したり、ステージを去ったりします。そこにさまざまなドラマがあり、周りで見ている人々は、その結果よりもそこに至る人間の生き様にオーラを感じ、感動するものなのだと思います。

 人生というのはなかなか思うようには行かないものであり、時に残酷なものです。オリンピックの選手にはもちろんですが、日常のさまざまな場面で言われる言葉があります。それが先の「最後まで諦めないことが大切!」です。本当にそうなのでしょうか。非常に難しい言葉です。本当に最後まであきらめないことが大切なのでしょうか。葛西選手のように41歳まで飛び続け、栄冠を手にした選手にはこの言葉はまさにぴったりな言葉といえるでしょう。しかし世の中には、諦めずに最後まで頑張った末に、身体を壊したり、結果を出せずに精神的にまいってしまうことも多々あります。いやそうした人たちの方が多いかもしれません。そういう事実を踏まえると、「最後まで諦めず頑張る」ということは間違いなのかもしれません。

 言葉には反対語があるものです。「渡る世間に鬼はなし」かと思えば「人を見たら泥棒と思え」などというのがあります。「善は急げ」で早くやろうと思うと「せいては事を仕損じる」です。「立つ鳥後をにごさず」で後始末をする人がいると思えば「旅の恥はかき捨て」という無責任。すべて人間がすることですからいろいろと「矛盾」があると言う訳です。そもそも「矛盾」という単語自体が反対語の組み合わせであり、切れないものはない「矛」と絶対に切られることがない「盾」という意味ですから困ったものです。同じように、「最後まで諦めず頑張ることが大切」という、誰もが一瞬「そうだよね!」と思わされる美言にも反対語があります。それは「何事も諦めが肝心」という言葉です。結局、これらの言葉はどちらも「真理」を表していないということです。何回も失敗を重ねながら最後には成功を収めたという「結果」があったときには「最後まで諦めず頑張ることが大切」であり、最後まで頑張って頑張って結果が出ない場合「人間諦めが肝心」となります。スポーツならまだしも努力が認められる余地がありますが、これが経営となるとそうはいきません。「最後まで諦めず頑張った」結果、大きな借金だけが残る場合があります。こうなると大変です。

 本来、これらの言葉は「結果」に対して使われるものではありません。それぞれの過程の中で、如何に、どの時点で「判断」したかが問われるものなのです。ある程度諦めずに努力を続けなければ、結果を出すために必要な到達点には至らないし、ある程度見極めたら「向き不向き」を判断し諦める、即ち方向転換も必要だということです。もうすでにお分かりのように、人生「諦めが肝心」か「最後まで諦めずに努力することが肝心」かという問題ですが、結局どちらでもないということです。

 それでは人生でもっとも必要なことは何か。それは「判断」です。どこまで続ければ良いか、どこで諦めれば良いか、これが人生を左右します。「そのタイミングがわかれば苦労はしない!」と怒られそうですが、その判断基準は明確です。「続けることが楽しくなくなった時」です。

 もうすぐ日本では新年度で新しい生活に入る方も多いでしょう。就職を迎える方に是非お伝えしたい。仕事は「好きな仕事に就く」人はごく稀。「好きな仕事が見つからない!」と悩むのはほとんど無駄です。世の中には無数の仕事があり、まだまだ新しい仕事を作り出すことが可能でしょう。そんな中で「ご縁があった仕事はとりあえずやってみる」という姿勢が大切です。そして頑張ってみて「好きになれるかどうか」「楽しめるかどうか」が重要なのです。「好きな仕事に就くのではなく、付いた仕事を好きになれるかどうか」で人間の幅の広さが決まります。

 今回のオリンピックで上村愛子選手が惜しくもメダルを逃しました。その時、ある有名な司会者がこう言いました。「他の楽しみは何もしないで、あんな苦しいトレーニングばかりしていたんだから、温泉でも行ってゆっくりしたらいいのに~」余計なお世話でしょう。本人が嫌ならば厳しいトレーニングを積むことはないでしょう。本人は好きで選んでいるのです。だからこそ、結果がどうあれ、その努力を見ている人々に多くの感動を与えるのです。

 自分の人生は他人に評論されるものではありません。何よりも「自分が楽しんだもの勝ち」なのです。