☆「考える」ということ


◆つい最近、中国人受験生のお母様とお話しする機会がありました。仕事の都合で長らく日本で過ごしていらっしゃったようですが、大学は絶対に中国かアメリカで受験をさせたいとのこと。何故かとお尋ねすると、日本の大学はレベルが低すぎるというのです。極端な話、中国で普通に高校を卒業した学生は、日本語が話せたとしたならば東京大学はほとんどの学生が入学できるレベルにあるというお話でした。現在の中国事情では初等教育から高校まで、しっかりと学校に通える家庭に育っている子供は国民の中でもそう多くはないでしょうし、それが出来る環境にあるのは中国の中でもエリート層でしょうから、多少表現はオーバーかも知れませんが、今の中国の勢いからすればうなずける話です。昨年の「世界大学ランキング」(イギリスのQuacqurelli Symonds調べ)によると、1位がケンブリッジ大(英)、2位ハーバード大(米)、3位エール大(米)。4位ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(英)、5位マサチューセッツ工科大(米)~ときて、23位香港大学、そして東大はやっと24位、京大が25位に顔を出します。その後、アジア勢では31位がシンガポール国立大、40位香港科学技術大、42位香港中文大、北京大が47位で、日本の大学では49位に大阪大学が3つ目として出てきます。日本国内の受験生にとっては国公立、早慶などは高嶺の花と感じるでしょうが、世界的にはこれが実情です。

◆別に大学のランキングなど、生きてゆく上においては何の関係もありませんが、そう片付けてしまう前にもう一度、教育というものを考え直してみるのもいいでしょう。 特に最近気になるのは、日本人の「議論」嫌いです。「熱く語る!」というのは本来良い言葉だと思うのですが、なにやら最近は「熱く語る」ことは「ヤボったい奴」の典型のように捉えられているようで、特に、若い世代では好まれない傾向にあるようです。人間は動物です。ですから当然、環境に左右されます。それこそ戦後の荒廃した国土を建て直し、今までの価値観が崩壊し、新しい世界の一員として生きてゆかなくてはならなくなった時代とは違い、世界でもある意味、もっとも進んだ国となった今、あまり考えなくても生きてゆける社会になっていることは確かでしょう。現状が続けば良いし、また現状を変えない方が面倒が少なくてよいと考えるのは当然かもしれません。それでも生きていかれる社会は、理想的なのかもしれないと思うこともあります。しかしながら現実はそうはいきません。3.11といわれる大震災に見舞われ、多くの人々が苦しんでいる中、政治家はなかなか国民が望むような行動をとりません。国会における議論も空転してばかりいます。大変な問題です。政治家だけでなく、社会システムも現実的には崩壊しかかっています。医療保険の問題、年金問題、社会保障等々、これらの社会システムは戦後の、人口が増え続けた人口ピラミッドを基盤として設計されているものです。ですから、現在のような少子化といわれる時代は想定しておらず、それに対応することは出来ません。これらは小手先では絶対に対処することが出来ない問題であり、根本的な「発想の転換」が必要な問題です。 実は、現代は社会が戦後に匹敵する、いや、それ以上の崩壊の危機に直面している時期なのです。

◆そのような時期を迎えながら「何となく生きられるからいいや…」ということで良い訳がありません。ですから前記した、大学ランキングからも何が読み取れるか、ということを「考える」必要があります。震災の後のコラムでも書いたことがありますが、人は災害が起きると「災害が教えてくれたことは何か?」と考えます。これは「反省の発想」です。起きてしまった事から何を学ぶかという姿勢です。勿論これも大変重要なことですが、リスク・マネイジメントとしては後手といえるでしょう。本来ならば、「常にさまざまな現象に目を凝らし、そこから何を読み取るか」という姿勢を持ち続け「常に考えておく」ことが重要です。この姿勢の不足が原発事故であり、災害に弱い街づくりとなったのでしょう。自分に直接関係のない事件や物事でも極力関心を持ち、「そこから何を学べるか」という姿勢を持ち続けることこそ、生きるうえでの本当の知恵となります。

◆「考える」ということには年齢的な違いがあります。当然のことながら、長く生きている人には、それなりの経験があります。ですから「経験がものを言う」「一日の長」という言葉があるように、人生のデータが多いことは「考える」ことの大きな武器となります。若い人には、この「経験」が少ないので、年配者との議論は嫌かもしれません。しかし、実際はそのようなことはありません。何故なら、若い柔軟な頭脳には大変な能力があります。それは「想像力」と「創造力」です。この経験だけに裏づけられる訳ではない、豊かな「創造(想像)力」こそ、実は発展への大きな力となります。人間は年を重ねるごとにこの能力が減っていくものです。ですから、大切なことは、『年を重ねたら経験だけにとらわれず「創造(想像)力」に気を配れ!若者はいろいろな経験を厭わず、そして「創造(想像)力」を磨け!』ということになります。 日本が、そして世界が混乱をしている現在。これは明らかに社会・世界秩序が変わりかけていることが原因です。これを乗り切って人類が遠い未来まで生き延びてゆくためには、それぞれが、それぞれの立場で、一所懸命「考え」、議論し、新しい秩序とルールを築いてゆく必要があります。それには今までに享受したさまざまな恩恵を捨てなければならないこともあるでしょう。受け入れにくいこともあるでしょう。しかし、考え、議論することによって新しい道が生まれ、そこに理解が生まれれば社会は一日にして劇的に変わります。

◆一人の人間が「考える」ということはこれほどまでに素晴らしいことであり、人間として生きているならば創造力をふんだんに使って、大いに「考えて」いただきたいと思うのです。